【石崎弘典】音楽界から公認会計士へ華麗なる転身、フランスからインドへ

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<石崎弘典/Hironori Ishizaki>

IMG_7562今回は、現在インドの大手会計事務所に勤務する傍ら、横浜シンフォニエッタの海外事業アドバイザー等、芸術と社会をつなぐエージェントとしても活動している、石崎さんに、お話を伺いました!


 —海外に興味をもたれたきっかけはなんですか?

この小さな島国では自分の器を測れない、高慢にも私は本気でそう思っていました。皆が何の疑問も持たずに定まったレールのうえを歩んでいることに、激しい憤りを感じていました。飲み会に明け暮れ、ある時期からは就職活動にしか関心をもたなくなる大学生の姿は、私の目にはまったく魅力的なものとは映らなかったし、同時に、世間と同じ尺度でものごとの価値を測っている自分自身にも嫌気が差すことも多かったです。

そんな中、徐々にこの島国の外にどんな世界が広がっているのかが気になり始めたんです。とにかく海外へ行ってみよう、そう思いました。
その後、すぐに留学試験に申し込み、試験を通過し、多額ではないが奨学金をいただいてフランスへ留学することが決まりました。

行動早いですね!フランスを選んだ理由は何ですか?

もともとフランス文化に対してはおおいに関心があり、音楽を専門的に勉強したいと思っていたため、パリを滞在先に選んだのだのは私にとって自然なことでした。

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フランスで、特に印象的だったことは何ですか?

フランス人のバンド・メンバーとの出会いですね。私の人生に大きな影響を与えてくれました。2人のフランス人からバンドを組んでいっしょに音楽をやろうと誘われ、オリジナル・ソングを2曲制作し、レコーディングも行ないました。私が日本へ帰国したのち、2009年の夏には、彼らを招いて、六本木のライブ・ハウスで共演もはたしています。ありきたりな言い方ですが、音楽は国境を越え、かけがえのない友との絆を私に与えてくれました。
しかし、同時に私の心には、ある新たな思いが浮かんできたんです。それは、私は音楽で生きていく人間ではない、という思いです。自分の能力の限界が見えてきたこと、人生をかけて音楽に打ち込む人々の姿をパリで目の当たりにしたこと等、様々な要因が絡み合い、自然に導かれるようにして新たな決意が生まれたんです。

新たな決意… それはなんでしょう?

私は、経済に多大な関心を持つようになりました。「文化も歴史も違うのに、世界は通貨によって繋がっている」「資本主義は、暴力的に物事を価値づけ、芸術をさえもその支配下においてしまう」それは留学中に肌で感じたことでした。ちょうどリーマン・ショックも起き、世界のどこかで起きた危機が、あっという間に世界中へと広がりました。「価値とは何なのであろうか」、「経済とはいったい何なのであろうか」という問題について、とても興味をかき立てられました。

なるほど!そこから経済の世界へ?

はい。パリ留学から戻って、経済学の勉強を始めました。大学院も経済方面へ進み、研究センターで仕事をする機会ももらい、米国のPh.Dへ留学しようとも思っていました。しかし、机上の空論を自分は描いているのではないかという思いが強くなってきました。実務を知らない、ということです。

私は、経済分野へ足を踏み出したとき、同時に米国公認会計士の勉強もはじめ、後に合格することができました。なんとなく資格だ、と安易に思ったのですが、これを活かして、仕事をしたいと思いました。26歳のときです。普通だったら社会人4年目ですね(笑)

 

—どうして「インド」だったんですか?

職を探しはじめると、信頼している先達からの紹介で、あれやと言う間に現在のポストへとたどり着いきました。私が現在の業務を開始したのは、2013年の2月のことですが、その3ヶ月前は自分がインドにいるなど想像もしていませんでした。


今、具体的にどのようなお仕事をされているのですか?

 私は現在、インドの地場大手会計ファームに所属し、日本企業を中心に外国企業のインド市場進出を支援するものです。クライアントとインド人専門家たちとのあいだで、プロジェクト・マネージメントを主たる仕事としています。会社設立、会計・税務・監査、M&Aなど、多岐にわたります。現在は、西インドを拠点に活動し、同地の政府系機関専属コンサルタントにも選出いただき、公的機関サイドからインド投資促進も業務もしています。さらに、政府系機関主催の講演会に講師として登壇したり、メガバンク発刊のビジネスジャーナルに寄稿したり、幅広い活動をさせてもらっています。

副業としては、日本人の、人生の自由化、国際化を推進しています。そのツールとしてイベントの開催、そして東洋経済で「世界の募集要項」という連載を持たせてもらっています。また、芸術関連の分野でも活動を続けています。音楽を創作・演奏する側ではなくなりましたが、マネージメントサイドで、関われるようになりました。

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石崎さんの1日が、24時間とは到底思えません(笑)その原動力はどこから来るのですか?

好きだから、体が勝手に動いている状態です。また、どちらの活動も、今後もっと必要とされることを確信しているからです。日本には、世界レベルで戦えるリーダーがいません。リーダーをもっと増やしていく、さらにはトップのみならず全体のグローバル感覚も底上げしていく、それが、日本がまた蘇っていく根源になると思っています。

芸術に関しては、こちらもより必要とされると思います。テクノロジーの進化、グローバル資本主義において、論理や正確さが重宝され、物質の消費に力点が置かれてきました。こんな中、芸術の価値は下がっていく一方でした。しかし、ある転換期が起こるのではないかと感じています。淘汰されていったはずの感性や精神的なものに価値が舞い戻っていくのではないかと。

 

どんどん活動範囲が広がって行きますね。

人生は不思議なもので、自分が思っているようにはいきません。これはいい意味で、です。全く考えもしなかった自分がいる、以前の自分が見たら驚くようなことをやってしまっている自分がいる。この感覚はやみつきになり、人生の醍醐味ともいえます。

 

石崎さんのアイデンティティーを形成する要素は、なんだと思いますか?

姉と弟をなくしています。姉は水子、弟は1歳にならずに亡くなりました。真ん中の自分が死んでいても、何度もそう思いました。明日死ぬかもしれない、極端な話、自分は奇跡的にこの世に生を受けたとさえ思うこともあります。だから、自分の人生を、一回の人生どこまでもやってみたいと思うんです。

 

今後の野望を、ぜひとも教えてください。

短期的な視点として、2つあります。これは副業としてこれまで活動してきた日本人の国際化、そして芸術分野における活動についてです。

まずは、日本人の若者の国際化支援に関して、世界レベルで戦える人材を増やすことです。もちろん、人には適材適所活躍する場があるとは思いますが、特に日本に足りていないのは世界Top1%の人材です。ここまで平均的な能力が高い国民も世界中見渡しても日本以外いないと思っています。しかし、世界レベルで動けるリーダーがいない。それを支援する小学生向け教育機関を来年に設立する予定です。使える英語力の習得、日本最高峰の頭脳によるリベラルアーツ教育を早期に実施、そして各分野で活躍する若きリーダーと早いうちに対話を行うセミナー、などを核として、ビジネスコンテストやフィールドスタディなども長期休暇では行っていく予定です。

芸術分野においては、こちらも団体をひとつ立ち上げます。ARTmentという一般社団法人で、芸術分野での起業家を輩出する、芸術を大学で専攻している創造的な人材を企業に送り込む、この2つを目的とします。主には芸術を専攻する学生を対象としていますが、ワークショップでビジネスの知識を学ぶ場を提供したり、ビジネスコンテストでは実際の起業モデルを考案しコンペを行ったりします。また、就職活動に関して情報が少ない芸術系学生に対しキャリアセミナーや個別カウンセリングを実施し、創造性だけでなく社会に対してもきちんと備えた素養を持って就職活動に臨んでもらえるよう支援を行います。

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日本の若者に、一言お願いします!

今は自分の意の向くままに進んでいますが、学生時代は、私も違った生き方をしていくことが本当に怖かったです。しかし、一旦、レールから外れてしまえば、レールなんてなかったことに気づきます。また、もっと現実的なことを言えば、レールから外れた方が、特に日本人の若者にとっては大きな武器になります。みなが同じような価値観、能力を持っている中で、自分は違ったものを持っている、それは答えのない次世代を生きるうえでは何よりの武器になります。決断の基準は、「迷ったときこそマイノリティー」なのです。

人生とは不可思議なもので、ひょんなことから新たな指針がずれていき、時をへだてて振り返えってみると、点どうしが繋がって線になり、自分の人生を彩る星座のようなものが生まれます。一歩踏み出す、このことの意義がどれだけのものか、測り知れません。この感覚は外れた人にしかわからないかもしれません。だから、騙されたと思って、外れてみてください!

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<石崎 弘典/Hironori Ishizaki>
東京大学文学部フランス語フランス文学専修卒業、米国公認会計士試験合格。
在学中は休学して、パリ大学ソルボンヌに留学、音楽を中心にフランス文化を学ぶ。
現在は、インドの大手会計事務所に勤務し、日系ほか外資企業のインド市場進出支援を、税務・法務・財務の観点から行っている。

東洋経済オンライン連載「世界の募集要項」:http://toyokeizai.net/articles/-/34211

1989年生まれ。北京大学国際関係学部卒業。株式会社Selan代表。インタビューサイト "belong" を運営。