【岩澤直美】英語圏だけが外国じゃない。日本にもっと多様性を—日本×チェコのハーフとして私ができること

岩澤直美
樋口亜希今回は、日本×
チェコのハーフで、子ども向けに英語で多文化教育を行なう団体「Culmony」(カルモニー)を運営する岩澤さんにインタビューさせていただきました。自身がアイデンティティーに悩んだからこそ実感した「多文化共生」の重要性。現在、早稲田大学2年生の岩澤直美さんの素顔に迫ります!


 岩澤直美

日本、チェコ、ハンガリー、ドイツで過ごした幼少期

 

—家族構成、生い立ちを教えていただけますか?

チェコ・プラハで生まれました。母はチェコ人で、父が日本人です。生まれて数ヶ月で日本に来て、5歳まで日本にいました。当時、母のチェコ語と父の日本語を聞きながら育ったのですが、幼稚園や近所の人たちとの交流が増えるに連れて家庭内でのも日本語が中心になっていきました。

幼稚園から小学校にかけての2年間は父の転勤でハンガリーのブダペストに滞在することになり、現地の幼稚園とインターナショナルスクールに通っていました。

その後、日本に戻り、大阪の地元の公立小学校に6年生の途中まで通った後、今度はドイツのデュッセルドルフに引っ越し、3年間インターナショナルスクールで勉強することになりました。高校は大阪にある帰国子女の多い、国際色豊かな高校に通い、大学進学と共に東京に引越してきました。

岩澤直美

—もともと英語が話せた訳じゃなかったとお伺いしましたが、英語が話せるようになる前と後で、心理的な変化はありましたか?

日本にいると、外見で「英語ができそう」と思われるんですよね。でも、小学校6年生までは、全然英語は話せなかったので「外人なのに、英語できへんの?」と馬鹿にされて、とても悔しかったことを覚えています。「期待されていることに対して、自分は答えられない」「相手は自分に幻滅しているんだ」と感じ、自己嫌悪に陥ることもよくありました。

ドイツでインターナショナルスクール入ってからの最初の1年半は、特に苦労しました。英語で行なわれてる授業の内容をなんとか把握しようと、両親が寝た後も2、3時まで勉強していました。ある程度英語が出来るようになり、自分の意志や考えが伝えられるようになると、自信がついてきましたね。

英語は、私に「言葉はコミュニケーションツールであり、文化をより理解するきっかけ」であるということを気付かせてくれました。

—言葉はツール。その通りですね。チェコはどんなところですか?

日本でいうと、京都のような街だと思います。世界で唯一、プラハ市全体が世界遺産に登録されています。千年の都であり、たくさんの古い建物や教会が町中にあって、本当に綺麗な街なんです。

チェコも含めて、ヨーロッパの小国は、自分たちの文化に誇りを持ちながら、「他国とは違う」というアイデンティティーをすごく大事にしていることが多いと思います。プライドが高いという傾向があるのかもしれません。

岩澤直美

 

英語圏だけが「外国」じゃない Culmonyの多文化理解教育

 

—Culmonyについて教えていただけますか?

はい。Culmonyは、多文化共生の実現を目指している団体で、日本人の幼稚園・小学生向けに、英語を切り口とした多文化理解教育や、多文化を身近に経験できるイベントなどを開催しています。 

—どんな想いで始められたのですか?

英語圏の文化に少し触れながら英会話を学ぶ場所はたくさんあっても、言語をツールとしながら、世界の多文化を身近に経験したり相互理解のための多文化共生に必要な力の育成に注力しているところは少ないなと感じました。

英語圏だけが「外国」じゃないということ、世界には多種多様な人たちがいて、互いを尊重し合いながら共生していく必要があること、世界に目を向けることで個々の可能性が限りなく広くなること、これらをより多くの子供達に知ってほしいとの想いでCulmonyを立ち上げました。

偏見をなくすためには、幼い頃から、身近な国際交流の機会から多様性を受け入れる器を形成していくことが重要だと思います。偏見や先入観をなくしていくことで、誰もがありのままで振る舞い、互いの良いところを支えに助け合えるような社会を創っていきたいと考えています。

岩澤直美

 

アイデンティティーは自分が決めるもの

 

私は自分の中で、日本人としてのアイデンティティが大きいと感じていますし、海外から日本に帰ってくると家に戻って来たような気持ちになります。でも、周りの人はそう見ていないんです。日本人か外国人か、のどちらかの選択肢しかないから、「一般的な日本人とは違う。つまり、外人だ。」と判断されてしまいます。

「日本人じゃないんだから、自分の国に帰れや!」と言われたこともありました。自分のアイデンティティーをこのように全否定されることが何度もあり、その度にとても悔しく、惨めな気持ちになっていました。

私は、アイデンティティーは周りの人が決めるものじゃなくて、自分が決めるものだと思います。他人の感覚で押し付けるものじゃない。日本は、「みんな同じ」という風潮が強い国で、マジョリティーの感覚に沿って一方的に判断した基準で、他者を否定してしまうことが非常に多いと思います。これが原因で、マイノリティーの人たちが生きにくい社会になっているのだと思います。

私は、そのような風潮を変え、だれもが平等に受け入れられた上で相互に協力し合えるような多様で、寛容な社会の実現に貢献していきたいと考えています。  

岩澤直美

 

 ハーフという私の個性

  

—今まで、ハーフであることで嫌だった思い出はありますか…?

私のアイデンティティーを否定されたことです。これは今もありますが…。自分では日本人だと思う部分もあるのに、そうじゃないと判断される、ということです。

大阪の小学校に転校して来た時も、「変わった奴がきた」となかなか友達ができなくて苦労しました。クラスの人たちに無視されたり、「日本語(大阪弁)の出来ない外人」と言われたり、「でも英語もできないんでしょ?」と馬鹿にされたりすることも多く、悔しいことばかりでした。「はやく外国に帰れ!」と言われたり、下駄箱のスニーカーに画びょうや泥、悪口の書かれた紙を入れられたりしたこともありました。何しても全否定されるし、常にみんなに監視されている気分でした。なるべく目立たないようにしながら、クラスに馴染めるよう努力はしました。

一方で、昔からプライドが高く、自分のふるまいや信念を変えることはできなかったので、自分の軸だけは曲げないようにと意識していました。

岩澤直美

—素敵!!ハーフとして生まれて、良かったなと思うことはありますか?

自分の中に複数の文化を持ち合わせていることだと思います。もちろん、ハーフではなくても、色々な文化が入り混ざる環境や、多文化圏で生活を経験していく中で複数の文化を持ち合わせることはできると思いますが、私の場合は、家庭内での環境と育った環境、両方から影響を受けたと思っています。様々な文化の「いいな」と思うところが組み合わさっていると思いますし、それが他にはない私の個性になっていると感じています。

岩澤直美

—インターナショナルスクールと日本はどう違いますか?

私が通ったインターナショナルスクールでは、みんなが違って当たり前だという認識が学校の文化の中に自然と定着していて、アイデンティティを否定されることや「みんな同じじゃないといけない」という深層心理ってなかったです。

むしろ、「みんな違って当たり前」という意識があるなかで、「自分はその中で、どれだけ個性的で他の人たちと違うのか」ということをアピールしてる人が多かったと思います。でも、どんなアイデンティティーも同じように尊重され、受け入れられていると感じられる環境でした。

一方で、日本の学校では「出る杭は打たれる」じゃないですけど、まわりと同じであることがなんとなく良いとされる風潮がまだあって、自由であるはずの個性や思考が長年の中で押さえつけられていると感じます。多種多様な人たちがいて、みんな違うからこそ、それぞれの良いところを最大化できるような学校環境がもっと増えればいいのにと感じています。

岩澤直美


マイノリティーが心地よく生きられる社会を

  

—今後、日本はどうすればもっと良くなると思いますか?

グローバル化が進み、オリンピックも近づいてくる中で、日本はこれまで以上に多様化、複雑化していくと思います。その中で、多文化が共生出来るような世の中を実現していきたいです。それぞれの違いを受け入れながら、他者を最大に尊重し合える社会が理想だと思います。

そのためには、当たり前の感覚として「みんな違う」という認識を持たなければいけないと思うし、その文化や個性に優劣はないということを理解する必要があるのだと思います。まだまだ、外国というものにも先入観や固定概念を強く抱いている人が多いと思います。

自分の体験としても、初めて会う人に躊躇されながら「ハーフの方…でいらっしゃいますか?」と申し訳なさそうに聞かれるのですが、そんなに壁を感じなくてもいいのに(笑)

また、母がチェコ人だと伝えると「チェコ・スロバキアか!」と歴史で学んだというイメージしか持っていなかったりとか、「じゃあ、英語ペラペラなんだ」と羨ましがられるんです。私は、英語もチェコ語も出来ない頃もあったので、すごく苦労しました。

偏見って怖いな」と時々思うのが、本人は悪気もなく無意識でしていることがある、ということだと思うんです。それが結果として、相手を苦しめる原因になっていたり、誤解や分裂に繋がってしまっているんじゃないかなと感じます。

「外人=英語圏出身」というイメージを持ってる人が多いですが、そうとは限らないということを多くの日本人の方に理解してほしいと思っています。

岩澤直美

—おっしゃる通りですね。

日本社会はまだまだ外国人をはじめ、少数民族や、発達障害者、性同一性障害者などのマイノリティーに対しての偏見が表に出てしまう傾向にあり、共生が実現できるような意識作りが実現できていないように思います。

社会がマジョリティーで構成されていると無意識に思ってしまっている状況を変えて、まずは意識化することから始めないと、今のように問題視しない人たちも多くいるという状況は変わらないのではないかなと思います。

例えば、最近だと渋谷区で新しく同性パートナーシップ条例が提案され、同性カップルの権利を守るような動きがありますが、まだまだ同性愛者の存在を否定する立場の人の意見も多く挙ってきています。ミス・ユニバースの日本代表にハーフの宮本エリアナさんが選ばれた時も、日本人の代表として彼女を受け入れられないという非難の声がありました。日本はまだ、「自分とは少し違うもの」を持っているマイノリティーの存在を認め、受け入れ、共生するための体制が出来ていないと感じることが多くあるので、この状況を変えていきたいです。

岩澤直美

—岩澤さんのアイデンティティーを形成する大きな要素は、何だと思いますか?

たくさんの要素が絡まり合って私のアイデンティティーがあるのだとおもいますが、あえて挙げるとすれば、3つあると思います。

1つ目は、環境に馴染む力を持っていることです。様々な文化を経験し、自分で持ち合わせているからこそ、どこに行ってもその環境のあり方を観察したり感じたりして、柔軟に合わせることが出来ると思います。

2つ目は、頑固で負けず嫌いな性格です。自分で一度決断したことはどんなことがあっても曲げないようにしています。自分で納得できないことや、自分が取り組みたいと思ってる分野でより優れている人を見つけては「負けたくない」という気持ちで強いモチベーションを保っているタイプです。

3つ目は、掲げる理想を常に現状からかけ離れているところにセットすることを無意識に行ない、自ら悔しさとコンプレックスを生み出していることです。これのおかげで、ギャップと戦いながら向上心を持っていられてると思います。

岩澤直美

<岩澤直美/Naomi Iwazawa>
Culmony(カルモニー)代表。日本とチェコのミックス。ハンガリーとドイツのインターナショナルスクール出身。帰国後は関西学院千里国際高等部に通いながら、大阪・ハンブルク友好都市の親善大使として文化交流を通した相互理解の促進に努める。幼い頃からのいじめをきっかけに、日本での多文化理解の必要性を感じ、幼児向けの多文化×英会話教室を運営するCulmony(カルモニー)を設立。現在は、早稲田大学国際教養学部に通いながら、児童への英語指導経験と6ヶ国語を活かして、教室の運営している。

1989年生まれ。北京大学国際関係学部卒業。株式会社Selan代表。インタビューサイト "belong" を運営。