【岩瀬大輔】東大、司法試験、コンサル、ハーバード—ライフネット生命社長、キャリアの選択軸と新たな挑戦

岩瀬大輔


樋口亜希
生命保険業界に旋風を巻き起こした、ライフネット生命代表取締役社長兼COOの岩瀬大輔さんにインタビューさせていただきました!文楽好き、ジャズ愛好家としても知られる風雲児・岩瀬大輔さんの素顔に迫ります!


 「何を」より「誰と」­キャリア選択の3つの軸


—東大、外資コンサル、MBA、起業というキャリアを歩まれてきた岩瀬さんですが、キャリアの選択軸は、どのようなものがあったのでしょうか?

あとから振り返ると、3つのポイントがあると思います。1つめは、人。「何をやるか」よりも「誰とやるか」という基準でキャリアの選択を決めてきました。弁護士よりもコンサルを選んだことは「自分もこうなりたい」と思えた先輩の存在がありました。、ライフネット生命を始めたのも、最初から保険事業を考えていた訳ではなく、投資家の谷家さんと一緒に仕事をしたかったからです。

 2つめは、自分にしかできない何かに挑戦したいということ。学生時代、司法試験に合格したものの、弁護士にならずに、新卒でコンサル会社に入社したのですが、当時、司法試験の合格者は750人ほどいたんです。750人のうちの一人になるよりも、同期が3人しかいなかったボストンコンサルティンググループに入った方が自分らしいのではと思ったんです。

その後も、小さい会社を2社経験しましたが、会社の規模は5人だったり、20人だったり。ライフネットも2人で始めています。常に、他の人にやってもらえることはその人に任せ、自分にしかできない仕事で、最大限の力を発揮したいと思っています。

3つめは、社会に足跡を残せる仕事をしたいということ。上場した今、ライフネット生命はこれからもずっと永続する会社になれたと考えています。
岩瀬大輔

 

—保険という今までと違う分野で事業を始めることに抵抗はなかったですか?

僕は楽天的なので、何かを始める前に、上手くいかないケースをあまり考えることがないんです(笑)どうしても起業したいというよりも、谷家さんと一緒に仕事がしたい、その想いが圧倒的に強かったので、立ち上げ時にはビジネスが失敗するリスクにはあえて思いを馳せませんでした。まあ、実際、始めてからは、想像以上に大変でしたけど(笑) 

なるほど。

僕は、正しい努力を続ければ、いつか成果は出る、そう信じているところがあります。あとは、コンサル時代にさまざまな業界を幅広く見てきましたので、生命保険業界に詳しい人と組むことができれば、業界知識を未経験であることは問題にならないと思っていました。実際、谷家さんに、生命保険業界に詳しい人物を紹介してほしいとお願いしていました。 

image007

ライフネット生命8年目—社長としての喜びと新たな挑戦


現会長の出口さんですね。先ほど、始めてからが大変だったとおっしゃっていましたが、1番大変だったこと、難しかったことはなんですか?

 多くのお客様から信頼を獲得することです。まずは、ライフネット生命を知ってもらうという、認知のフェーズがあって、その次に、実際に保険を選んでもらうための信頼を得るというフェーズがあります。会社の信頼は個人間の信頼関係と同じで、コツコツと多面的に積み上げていくしかありません。これがこれまでの課題であり、これからも継続する課題だと思っています。

—会社を立ち上げて1番良かったと思うことは何ですか?

一緒に働く仲間を自分で選べることです。人材にはとても恵まれてきたと思います。僕は社員を全員面接しているのですが、「この人と働きたい」と思った人と朝から晩まで一緒にいられるのは、会社をやっていて最高に良かったなと思える点です。毎朝、会社に来たら、自分が選んだ人たちに囲まれているわけです。これはとても大きな喜びです。結局、何をやるかよりも、誰とやるかが大切なので。

—全員、自分が「一緒に働きたい!」と思った人…想像するだけで、ワクワクします!最近、KDDIとの提携がYahooのニューストピックに上がっていましたが、何か心境の変化はありましたか?

心境は変わらないですが、素晴らしい事業パートナーを得られたことをとても嬉しく思っています。ちなみに、携帯はAuに変えました(笑)新たなステージにいけるよう、頑張りたいと思います。

岩瀬大輔

 

幼少期、英国で学んだ「人と違うことを恐れない」ということ


—現在の岩瀬さんに、一番大きく影響を与えている経験は何ですか?

人格形成というのは一つの要因では決まらなくて、人生のさまざまな経験の積み重ねだと思うのですが、あえて一つ挙げるなら、子供の頃、イギリスに住んでいたことが影響しているかもしれません。

当時、イギリスの学校で、日本人は僕だけだったんです。僕が住んでいた街は、ロンドンから少し離れた郊外でしたが、地方のイギリス人は、外国人に対してとても保守的で、完璧なイギリスの英語を話せば、「英語上手いね。なんで話せるの?」と聞かれますし、逆に、下手だと、「お前、発音が下手だな」と言われます。イギリスでの生活を通して、人と違うことを恐れないと考えるようになったことは、現在の自分に大きな影響を与えていると思います。

—小さい頃、所属するコミュニティーで自分がマイノリティーの場合、「人と違うこと」にネガティブな感情が生まれそうなものですが、それはなかったですか?私自身、小さい頃、マイナスの感情を持っていた時期がありました。

実は僕、イギリスに行く前は、人と同じでないと嫌な子供だったんです。「人と違うことをしたい」と思うようになったのは、イギリスでの経験が大きく影響していると思います。

—そうだったんですね。ありがとうございます。ここからは、岩瀬さんの経営者以外の一面に迫りたいと思います!

はい(笑)

 

自由の象徴・ジャズの魅力と海外で気づいた日本の「美」

岩瀬大輔 —文楽好き、ジャズ好きとしても知られる岩瀬さんですが、「意外な一面だな」と思う方もいらっしゃると思うんです。それぞれの魅力について少し教えていただけますか?

はい。まず、文楽についてですが、僕は帰国子女の方が、ある意味で日本の文化に敏感なところがあるのではと思うんですね。

浮世絵をかっこいいと思ったのは、ボストン美術館で出会ってからです。館内で、おどろおどろしい大きな宗教画を見た後に、廊下にあった日本の浮世絵を見て、純粋に「かっこいいな、きれいだな」と思ったんです。

19世紀後半、フランスの芸術家達の間で「ジャポニズム」なる運動がおこり、日本の美術をこぞって真似した意味を、そこで初めて理解しました。海外にいると日本の素晴らしさやありがたみに気づきやすいと思います。

僕は、もともと音楽をやっていて、アートも好きだったので、文楽と出会って、すっかり虜になりました。文楽は一言で言うと「日本的な様式美」です。文楽には、他の国ではおそらくないような、日本的な美しさがあります。舞台構成やストーリー、衣装、言葉など、全てが美しいですね。

ジャズは、僕の中では「自由」の象徴なのです。最初から最後までかっちり右手と左手の動きが決まっているクラシックとは違い、ジャズはゆるやかにしかルールが決まっていないんですね。弾き始めも、終わるのも自由なので、即興で演奏ができるし、チームワークやその場の雰囲気を意識しながら、曲を作り上げていく感じも好きですね。なので、初めて出会った人とも演奏できる。

岩瀬大輔

—それ、本当すごいことですよね。まさに以心伝心ですね。

僕、週末の予定を前もって決めるのも、あまり好きじゃないんです。朝起きてから決めたいタイプなんですね。

—ジャズは、岩瀬さんの性格を表しているんですね(笑)

はい(笑)みんなで即興で作り上げていくという観点では、ジャズとベンチャー経営も似てるなと、最近思います。

—なるほど。ちなみに、若い頃から、年齢層高めのものがお好きだったんですか?(笑)

好きなものはずっと変わらないですね。昔から、ちょっと「渋い」ものが好きでした。大学の時も、みんながテニサーやゴルフサークルで楽しそうにしている中、ジャズ研の部室でこたつに篭ってマンガを読んでいました(笑)

—オタク気質だったんですね(笑)でも、なんだかお洒落!最近も、ご自身でジャズは弾かれますか?

オタク気質なのかもしれません。今も、時折、ピアノは弾いてますよ。

 

今の自分には想像もできないような、面白いことをやっていたい


—著書「直感を信じる力」のサブタイトルにもなっている「人生のレールは自分で描こう」とbelongのコンセプトは、共通する部分が大きいと思うんですが、一方で、「自由」や「自分でレールを描く」ことが怖い、苦手だと感じる人も多い気がするんです。そんな人に向けて、岩瀬さんなら、なんて声をかけますか?

「自分で道を描いていくことは楽しい」と伝えたいと思います。自由と責任は裏返しであり、責任が怖いから、自由であることが怖いんだと思うんです。自分のキャリアを全部誰かに決めてもらいたいという人は、それで良いと思うんです。人ぞれぞれですから。

ただ、僕は、例えば40歳で課長、50歳で部長みたいな、リタイアするまで自分の将来が見えているような人生は送りたくないタイプ。10年後にどうなっているかわからないような道を選択したい。まあ、でもこれは好みの問題だと思います。樋口さんはどうですか?

—私も全く同感です。書籍「仕事で一番大切な 人を好きになる力」では、「まずは、自分から人を好きになる」ということについて書かれていると思います。岩瀬さんがご出演されていた対談番組を拝見していて思ったのですが、岩瀬さんって、相手の方にたくさん質問しますよね!

そうですね。好きになるということは、相手に対して好奇心を持つこと、相手を思いやっているということを見せることじゃないかと思います。まあ、でも、好きになるよう心がけているというよりは、自然にそうなっている感じですが。僕は、直感で好きだと思えることは大切にするようにしています。

相手に対して「あなたに興味がありますよ」というサインが出ているので、その結果、相手も更に岩瀬さんのことが好きになるんじゃないかと思いました。

どんな人であっても長所はあるはずなので、その人のいい所を探すようにしています。

岩瀬大輔

—何か心がけていることはありますか?
例えば友人や知人がメディアに出ていたら、必ず、見たよ!というメッセージと共に、感想を送るようにしています。特別なことではないんです。僕は、みんなが普通にやっていることを、丁寧にやっているだけだと思います。

—岩瀬さんの、アイデンティティーを形成する要素は、なんだと思いますか?

子供の頃イギリスで育ったことと、いい仲間が沢山いることですね。岩瀬さんってどういう人ですかと聞くと、知り合いが多いよね、とよく言われるみたいです。素敵な仲間が沢山いることに尽きると思います。

—今後の展望を是非とも教えていただきたいです!

2つあります。1つはライフネット生命を大きくして、若い人が生命保険を検討する際に、1番に頭に思い浮かべてもらえるような会社に成長していきたいです。「保険はどこに入ってるの?」「え、ライフネットじゃないの!?」というレベルにまで持っていきたいです。2つめは、10年後、今の自分のちっぽけな世界観では想像できないような面白いことをやっていたいです。

 

今の若い世代は、人類史上最もチャンスと力を持っている


—ありがとうございます!最後に、日本の若者に向けて、メッセージをいただけますか?

若者といっても色々な人がいるので、ひとつのメッセージに集約するのは難しい気がします。努力している人もいれば、しない人もいる。

では、努力している人に向けて言うならば、今は、今は昔よりも本当にチャンスが多いということを改めて認識して欲しいです。例えば、昔はYoutubeでTEDやスティーブ・ジョブズのプレゼンを聞くこともできなかったし、Kindleで欲しい情報をすぐに入手することもできなかった。僕が学生の時は、今ほど社会人と接する機会もありませんでした。

ダボス会議で「今の若い世代は、人類史上最もチャンスと力を持っている」と言っていましたが、本当にそうだと思います。また、昔と比べて、キャリアの選択肢が多いし、多様性が認められている時代です。もちろんそれは自分の努力次第ですが。ただ、努力すればチャンスを掴める時代なので、皆さんには、そういった認識で頑張ってほしいと思っています。

 

岩瀬大輔

<岩瀬 大輔/Daisuke Iwase>

ライフネット生命代表取締役社長兼COO。1976年埼玉県生まれ、幼少期を英国で過ごす。1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストン・コンサルティング・グループ、リップルウッド・ジャパン(現RHJインターナショナル)を経て、ハーバード大学経営大学院に留学。同校を日本人では4人目となる上位5%の成績で修了(ベイカー・スカラー)。2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げる。2013年6月より現職。世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2010」選出。株式会社ベネッセホールディングス社外取締役。

 

1989年生まれ。北京大学国際関係学部卒業。株式会社Selan代表。インタビューサイト "belong" を運営。